日本法医学会倫理綱領
Code of Ethical Practice in the Japanese Society of Legal Medicine

 「法医学とは医学的解明、助言を必要とする法律上の案件、事項について、科学的で公正な医学的判断を下すことによって、個人の基本的人権の擁護、社会の安全、福祉の維持に寄与することを目的とする医学である(1982年日本法医学会教育委員会報告)」とされる。鑑定、報告、診断等の実務を通じて下される医学的判断は社会に大きな影響を与えうるため、実務に携わる法医学者は、常に倫理的な判断と行動を成すことにより、社会から信頼され負託されなければならない。また、死因究明に対する社会的要請の高まりに関連して、法医学の後継者育成や正確な診断法の開発など教育、研究の重要性についても社会的認識が高まっている。そこで日本法医学会は、法医学の専門性を勘案して、法医学の実務・教育・研究などの実施にあたって依拠すべき基本原則と理念を定め、ここに「日本法医学会倫理綱領」を作成して公表する。本綱領は、日本法医学会会員が遵守する倫理綱領であり、法医学を発展させ、かつ、社会の負託に応えるために、本綱領を十分に認識しなければならない。

(法医学者の責任)
1 法医学者は、教育・研究活動により専門知識や技術の質を担保し、公正に鑑定等の実務を行い、個人の基本的人権の擁護、社会の安全、福祉の維持に寄与する責任を有する。

(自己の研鑽)
2 法医学者は、自らの専門知識や技術の維持向上に努めるとともに、鑑定等が及ぼす社会への影響を広い視野から理解し、常に最善の判断と姿勢を示すようにたゆまず努力する。

(鑑定等の実務)
3 法医学者は、鑑定等の受託・実施・報告・証言などの過程において、依頼者の意向に追従せず、中立の立場で公正かつ誠実に行動する。判断できない場合は、その旨を述べ、無理に結論づけることを避け、ねつ造、改ざんなどの不正行為を為さず、また加担しない。所見・検査データの記録保存及び厳正な個人情報保護を徹底する。

(説明義務)
4 法医学者は、自らの鑑定等の原理、手法、意義などについて司法当局や法曹、裁判員、当事者に必要に応じて説明し、理解を促す努力をする。鑑定書等の書類作成に際しては、理解しやすい平易な表現を心がけ、可能な限り迅速に提出するように努める。報道機関など第三者に対しては秘密保持に充分留意して対応する。

(解剖における配慮)
5 法医学者は、解剖に際して、遺体に対する敬虔な礼意を忘れず、死者に関わる権利を尊重し、遺族や関係者に対して真摯な態度で対応する。

(教育活動)
6 法医学者は、鑑定等の原理、手法、意義などを医学生や医師に教育し、後継者の育成に努める。また、法曹を含む市民に対し、法医学に関する啓発活動を行い、社会との対話に努める。

(研究活動)
7 法医学者は、鑑定等に関連する基礎・応用研究を行うことにより、鑑定精度の向上に努める。得られた研究成果は学術会議や学術雑誌にて科学的に示し、その正確さや妥当性について第三者の評価を積極的に受ける。

(研究協力者への配慮)
8 法医学者は、関係する法令・指針に従い、研究への協力者の人格、人権を尊重し、福利に配慮して行う。

(法令の遵守)
9 法医学者は、鑑定等の実務や研究の実施、研究費・検査費の請求・使用などにあたっては、関係する法令・指針に従う。

(差別の排除)
10 法医学者は、教育・研究活動、鑑定等の実務において、人種、性、地位、思想・宗教などによって個人を差別しない。

(利益相反)
11 法医学者は、自らの研究、鑑定、審査、評価などにおいて、個人と組織、あるいは異なる組織間の利益の衝突については適切に対応する。

以上

平成25年6月26日

特定非営利活動法人 日本法医学会理事長 平岩 幸一

日本法医学会 医の倫理委員会
委員長   小片  守
副委員長  赤根  敦
委員    山内 春夫
委員    呂  彩子
委員    塚田 敬義
委員    藤宮 龍也
外部委員  稲葉 一人
外部委員  水口真寿美

本綱領は平成25年6月26日開催の第98回日本法医学会評議員会で承認された。