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A.バルビツール酸
(2)ガスクロマトグラフィー (GC),GC・質量分析法 (GC/MS)

 i)前処理

試料1) 0.2 ml
↓ i) 水1.3 ml,0.2 M 酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)2) 1.0 mlおよび酢酸エチル/エーテル3)(1:1,v/v) 3 mlを加える.
ii) 2分間撹拌後,遠心分離(800 gで5分間)する.
有機層
↓ スピッツ管に移し,窒素ガス気流で溶媒を留去する.
残渣
↓ 0.4 mM trimethylaniliumn hydroxide/メタノール溶液4)に溶かす.
GCあるいはGC/MS

 【注 解】
1) 試料は血液,尿など.臓器はその2gに 0.05 N NaOH液 18 ml を加えて,ホモジナイズし,遠心分離 (12,000 g で20分間) 後,その上層のほぼ全量を分取し,エーテル 20 ml で2回洗浄する.水層を10% 酒石酸でpHを約6 に調整した後,酢酸エチル/エーテル (1:1, v/v) 20 ml で2回抽出する.以下,液体試料と同様に操作する.但し,この方法は追試されていないので,回収率,夾雑ピークの有無等は不明である.
2) 酢酸ナトリウムの16.41 g/l 水溶液を調製し,0.1N 酢酸でpHを 6.0に調整する.
3) 抽出溶媒は,エーテル,酢酸エチル,クロロホルム,ジクロロメタンなども使用できるが,生体由来の夾雑ピークの少ない本抽出溶媒を採用した.なお,エーテル,酢酸エチル,ジクロロメタンはmetharbital の抽出効率が低い (46-63%).
4) メチル化剤として 0.2 M trimethylaniliumn hydroxide (TMAH) (Pierce社製;Meth-EluteTM) のメタノール溶液を使用する.TMAH/メタノール溶液の濃度は FID 検出器では 4 mM TMAH/メタノール溶液,NPD 検出器では 0.4 mM TMAH/メタノール溶液を用いる.
5) 検量線は各催眠薬の10 μg/ml メタノール溶液を用いて作成する.このメタノール溶液 (例えば 10,25,50,100,500,1000 μl) を取り,窒素ガスで溶媒を留去し,残渣に血清 0.2 ml を加えたものを用いる.

 ii)GCの条件


装置:
検出器:
カラム:

温度:
キャリアガス:
ガスクロマトグラフ
FID(水素炎イオン化検出器)
1% OV-17/Gas Chrom Q(AW-DMCS,80-100 mesh),
0.5 m×3 mm i.d.
カラム 140-(10℃/min)-220℃; 注入部・検出器 250℃
ヘリウム 50 ml/min



装置:
検出器:
カラム:

温度:
キャリアガス:
ガスクロマトグラフ
NPD(窒素-リン検出器)
メチルシリコン系熔融シリカメガボアカラム,
15 m×0.53 mm i.d., 膜厚 1 μm
カラム 60-(8℃/min)-250℃; 注入部・検出器 250℃
ヘリウム 30 ml/min 測定時間:約15分


 iii)GC/MSの条件


装置:
カラム:

温度:

キャリアガス:
イオン化:
測定:
ガスクロマトグラフ/質量分析計
メチルシリコン系熔融シリカキャピラリーカラム,
15 m×0.25 mm i.d., 膜厚 1 μm
カラム 60-(3 min,スプリットレス)-(8℃/min)-250℃;注入部 250℃; イオン源 250℃
ヘリウム 2 ml/min
CI(化学イオン化) 200 eV,EI(電子衝撃) 70 eV
質量範囲 m/z 50-600; 時間 約15分


 【注 解】
1) TMAH によるオンカラムメチル化は,他のバルビツール酸系催眠薬 glutethimide, primidoneなどにも適応できるが,thiopentalはピークが出現せず不適である.
2) FID 検出器では 1 - 5 mg/ml,NPD検出器では 1 - 5 μg/mlの濃度にする.
3) バルビツール酸系催眠薬の ng オーダーの微量分析では,遊離塩基は OV-17 ではほとんどピークが検出されず,DB-1でも metharbital, hexobarbital 以外は著しく感度が低い.一方,メチル誘導体は遊離塩基よりも感度が数倍から数十倍に上昇する.メチル誘導体の検出限界は,NPD検出器では 60-70 pg (DB-1) および約100-200 pg (OV-17),FID検出器では 14-19 ng (DB-1) である.バルビツール酸系催眠薬の遊離塩基およびメチル誘導体の保持時間,保持指標を表1に,バルビツール酸系催眠薬のメチル誘導体のマススペクトルを表2に示す.
4) 試料注入部温度が低い (200℃以下) とオンカラムメチル化の効率が低下する.
5) カラムはJ & W 社製の DB-1 またはその相当品が良い.
6) 検量線は 0.2-10 ng の範囲で良好な直線性が得られる.回収率は 0.1, 1.0, 5.0 μg 添加で 83-111%である.
7) キャピラリーカラムを用いた催眠薬の分析は,機器製造会社のアプリケーションデータなどを参照.

 表1.主なバルビツール酸系催眠薬の遊離塩基および誘導体の保持時間と保持指標

化 合 物 保持時間(分) 保持指標

1% OV-17 DB-1 DB-1

 Metharbital 1.26 6.852 1407
 Methylmetharbital 1.01 6.308 1367
 Allobarbital 2.56 9.133 1569
 Methylallobarbital 1.42 7.616 1457
 Amobarbital 3.20 10.748 1688
 Methylamobarbital 1.91 9.272 1575
 Pentobarbital 3.70 10.976 1706
 Methylpentobarbital 2.12 9.618 1600
 Secobarbital 3.90 11.647 1758
 Methylsecobarbital 2.40 10.183 1642
 hexobarbital 4.90 12.342 1811
 Methylhexobarbital 4.21 11.877 1772
 Phenobarbital 6.16 13.506 1909
 Methylhenobarbital 4.54 12.243 1801


 表2.主なバルビツール酸系催眠薬のメチル誘導体のマススペクトル

CI法(isobutane) EI法

分子量 MH+ 基準ピーク 他のフラグメントイオン

 Methylmetharbital 212 213 169 184,126,112
 Methylallobarbital 236 237 195 138,194,110,221
 Methylamobarbital 254 255 169 184,112,126
 Methylpentobarbital 254 255 169 184,112,126
 Methylsecobarbital 266 267 169 195,181,138,223
 Methylhexobarbital 250 251 235 81,79,169
 Methylphenobarbital 260 261 232 117,146,175,77


 【文 献】
1. Tanaka E et al. Forensic Sci Int 1997;85:73-82.

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