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法医中毒学研究室ガイドライン (草案) |
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はじめに |
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法医中毒学実務の基本理念は鑑定試料の法的有効性を維持しつつ,正確で信頼性のある分析を行ない,分析,法医中毒学研究室に求められている必要条件を提示している.しかし,これは規定することを意図したものではなく,法医中毒学研究室が将来の目標を達成するための指標となることを目的としている. |
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1. 研究室の使命/目的
法医中毒学研究室は明確な研究室の使命/目的を掲げ*1,それを標準操作手順マニュアル[Standard Operating Procedure (SOP) Manual以下,SOPマニュアルと称する]の冒頭に記載する.また,ホームページなどに掲載して公にすることが望ましい.
*1 本報告書の17頁:参考資料1を参照. |
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2. 職員 |
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2.1 研究室の薬毒物検査管理者
法医中毒学研究室は,専門技能を有し,その部門のすべてに責任を持つ資格を与えられた人が管理する.
管理者は,検査に携わるすべての職員が利用するSOPマニュアルを常に完全で最新のものに更新しなければならない.
管理者は,新しい分析法をバリデーション (Validation)し,正確で信頼性のある分析および検査結果を保証するための手順を作成しなければならない.
法医中毒学研究室は規制物質を取扱うとともに,刑事裁判システムに重要な結果を生み出すので,管理者は全職員が高い倫理観を持ち,道徳規範に適うように指導・教育しなければならない. |
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2.2 その他の研究室職員
その他の研究室職員の職責と類型は研究室の規模と目的により異なる.ある検査を担当するには,その検査を行い得る実力を持ち,管理者によってその技能を認められた人でなければならない.(資格のない人が検査をしてはならない) |
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3. 標準操作手順
研究室は検査に携わるすべての職員が利用できるSOPマニュアルを作成するよう努力する.
SOPマニュアルには,試料の受取り,研究室への受入れ(外部機関から)および取扱い,Chain of custody(証拠物件保管の継続性),分析,Quality Assurance (QA:品質保証) およびQuality Control (QC:品質管理),データの再吟味および報告書作成のための手順などを詳細に記述する.
SOPマニュアルの各分析法の項には,1) 方法の理論と原理,2) 試薬の調製法,3) 詳細な分析手順,4) キャリブレーターとコントロールの調製法,5) 試薬の取扱い,あるいは安全確保のために特に必要な情報,6) バリデーション・パラメータ [例えば,定量限界 (LOQ),検量線の直線性],7) 定性あるいは定量結果の容認/却下の基準,8) 参考資料 を記載する.
SOPマニュアルにない分析を行なうときは,その分析を最初に行なったときにSOPマニュアルに付け加える.(新しい分析法はバリデーションしなければならない)
SOPマニュアルの各分析法の末尾に管理記録欄*2(分析法の履歴・吟味の記録)をつくり,その分析法が最初に使用されたとき,あるいは変更されたときに,必ず日付,コメントを記入し,署名する.
*2本報告書の標準操作手順マニュアル53, 66および70頁:本分析法の履歴・吟味の記録を参照. |
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4. 試料の採取,取扱いおよび受取り |
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4.1 試料の採取とラベル付け
研究室の薬毒物検査管理者は,解剖執刀者あるいは検査依頼機関に対する指示書を準備し,配付しておく.
指示書には,必要とする試料の類型と必要量*3,試料容器の類型および大きさ*4,個々の試料容器のラベル付け*5および適切な包装と輸送方法*6などを記載する.
*3 本報告書の「薬毒物検査のための手引き」28 - 29頁:薬毒物検査試料の類型・量を参照.
*4 例えば,13 mlのネジ口栓付きポリプロピレン製試験管.
*5 本報告書の29頁:2) 資料容器 iii) を参照.試料採取担当者は指示書に従って試料を採取し,剖検(認識)番号・試料名・試料採取日などを記載したラベルを付ける.
*6 例えば,試料とドライアイスを発泡スチロール箱に入れて密封し,クール宅急便で送付する. |
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4.2 試料の取扱い
検査委託機関および受託機関ともに,適切なChain of custody文書*7を作成する.
1人の人あるいは1つの場所から別の人(場所)への試料の受渡しおよび輸送は,常にChain of custody文書に記載する.
試料は分解,コンタミネーション,改竄・破損などの可能性を最小限にするような方法で輸送し,保管する.
試料を受取ったときは,外部の梱包状態を試料と一緒に送付された検査依頼書,研究室日誌 (Log book),あるいは研究室記録文書の何れかに記載する.
*7 本報告書の18頁:参考資料3を参照. |
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4.3 試料の受取り
試料を受取ったら直ちに,薬毒物検査依頼書と受取った試料とを照合し,試料輸送の手段,個々の試料容器の完全さ,各試料の状態および受取った日時を研究室日誌あるいは研究室記録文書の何れかに記録し,署名する.また,受取った試料に,研究室独自の識別番号を付ける. |
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5. セキュリティとChain of custody |
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5.1 研究室
法医中毒学研究室への人の出入りは制限する.外来者訪問記録簿を用意し,氏名,訪問日時,訪問目的および退出時間を記載して貰い,職員がチェックする. |
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5.2 試料
試料の安全を確保するために,研究室は隔離された受入れ場所を持つことが望ましい.この場所で試料を受取り,受入れ番号を付け,冷蔵庫あるいは冷凍庫に保管する.
試料を受取ったときは,受取った人が新しいChain of custody文書に試料の受取り日時を記載し,署名する.
受取った試料に剖検番号あるいは研究室独自の識別番号,試料の類型(例えば,血液),試料採取日を記載したラベルを貼る.
Chain of custody文書には,外部機関からの試料の受取りだけではなく,研究室内での試料の移動あるいは試料の一部の移動も記載する.
試料を移動したり,分析するためにその一部を取り出したときは,すべてその試料のChain of custody文書に記載し,永久保存する.
分析が終了したら,試料は安全な長期保管冷凍庫に移す.保管場所間の試料の移動および試料の廃棄もChain of custody文書に記載する.研究室は試料の保管および廃棄に関する手順マニュアルを常備しておく. |
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6. 分析法 |
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6.1 スクリーニング/確認検査
最初に検出あるいは同定した薬毒物は,通常,異なった方法によって確認する.
確認検査は最初の検査に用いたものと同じ類型の試料(例えば,血液)から別に抽出した抽出液,あるいは異なった類型の試料(例えば,尿)から抽出した抽出液を用いて行なう.最初の検査と同じ抽出液を用いて行なった確認は容認できない.
定量分析の一部として,GC/MSを確認に用いる場合は,各分析対象物質の第一の選択イオンに加えて,特徴的な選択イオンを少なくとももう1つ使用する.一般に用いられる選択した2つのイオンの相対イオン強度比の容認基準は,コントロールあるいはキャリブレーターの±20%である.
GC/MSあるいはLC/MSによるスクリーニング/確認を行なう場合は,各分析対象物質の保持時間およびマススペクトルが標準物質のそれらと一致することを確認する. |
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6.2 定量分析
分析を管理するには,試料をバッチ (Batch) にしてグループ化し,各バッチに十分な数のキャリブレーターとコントロールを加える.
クロマトグラフ法では,検出限界 (LOD) あるいは定量下限 (LLOQ) はその分析に用いた最低キャリブレーター濃度*8である.
すべてのクロマトグラフ法 (例えば,GC, HPLC, GC/MS) では,適切な内部標準を用いる.内部標準はできるだけ分析対象物質と類似した化学的・物理的性質を持つものでなければならない.GC/MS法には安定同位体 (例えば重水素化体) 内部標準が望ましい.
分析法の直線性は基本的には,少なくとも3つのキャリブレーターを用いて証明する.キャリブレーターの濃度は予想した試料濃度を含むようにする.
クロマトグラフによる分析法のキャリブレーションの容認基準は,SOPマニュアルのその分析法の中に記載しておく.多点キャリブレーションでは,このファクターは通常,相関係数(r2)であり,容認できる相関係数は0.99である.しかし,相関係数0.98まで容認される場合もあるだろう.
非常に低い濃度の試料は,その直前に測定した非常に高い濃度の試料からの持ち越し (Carry-over) がなかったこと確認*9しなければならない.
分析結果が“異常値 (Outlier)”,すなわち,真の値から有意に外れた測定値を示すことがある.コントロール,ブランクあるいはキャリブレーターの“異常値”はその原因を解明しなければならない.しかし,“異常値”が試料の単回分析でみられたのであれば,その結果を同じ試料の別の分析結果と比較できないので,その試料の“異常値”の原因は確認しようがない.このことから,多重分析,少なくとも同一試料2つを抽出し,定量することが望ましい.
クロマトグラフによる分析法では,保持時間も容認基準の一部にする.GCによる分析法では,キャリブレーターあるいはコントロールから1 - 2%の偏差が容認できる.HPLCによる分析法では,特に,移動相がグラジュエント (Non-isocratic) にプログラムされている場合は,これより僅かに大きな偏差は容認できるだろう.
*8 分析法をバリデーションしたときの数値ではなく,各バッチの分析結果が容認されたときの最低キャリブレーター濃度がそのバッチの検出限界あるいは定量下限となる.
*9 試料注入順番表(本報告書17頁:参考資料2を参照)と検査結果をチェックする. |
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6.3. 標準添加法
腐敗したあるいはミイラ化した試料のような場合,キャリブレーターおよびコントロールを調製するための類似したマトリックスを入手することは困難,あるいは不可能である.このような場合は,“標準添加法”の方が絶対検量線法や内部標準法より適している.“標準添加法”では,既知量の分析対象物質を試料の1部に加え,分析対象物質を加えた試料の応答と分析対象物質を加えていない試料の応答とを比較することによって定量する.この場合,内部標準を使用し,多点キャリブレーションを行なう. |
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7. Quality Assurance (QA:品質保証)/Quality Control (QC:品質管理) |
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7.1. Quality Assurance
QAは試料の採取および受入れから,分析,データの再吟味および報告書作成までの分析過程のすべての面を含む.QAは各分析のQC結果および研究室の実力試験を含むが,それだけではない.QA計画の1つの目的はランダムであれ,系統的であれ,誤りを見つけ,適切な修正(改善)作業を行うことにある.
使用する標準品(液)(Standard)の出所源と取得した日付を記載した文書を保存する.基準物質はその安定性と完全さが保てる条件下で保管する.研究室で標準品を製造する場合は,試薬の出所源,製造方法および最終産物の検証結果を記録し,ファイルにして保存する.
すべての標準品(液)および試薬に定型のラベルを貼る.取得あるいは調製した日付,および調製した人のイニシャルをラベルに記入する.ラベルに必ず使用期限を明記する.納入業者/製造業者が決めた使用期限は,その日を過ぎてその有効性が証明されない限り,標準品(液)/コントロールの有効期限となる.
まず最初に,検量線の特性を調べるために,十分な数のキャリブレーターを分析する.最初のキャリブレーションでは,1つのブランクと少なくとも3つのキャリブレーション点を取ることをが望ましい.検量線の安定性を調べるには,上記試料に陽性と陰性のコントロールを加えて,研究室の条件下で分析する.
一般的に,適切なコントロールのセットは,少なくとも,分析対象物質を含まない試料(陰性コントロール),および分析法の性能を実際的に監視する濃度の分析対象物質を含んだ試料からなる.予想した範囲を越える検量線の直線性を検査するときには,追加のコントロールを用いる.
コントロールの結果が容認基準を逸脱したときに行なう修正作業を,SOPマニュアルに明細に記載しておく.
法医中毒学研究室は,研究室の定性・定量能力を監視できるような血液中アルコールおよび血液中薬毒物に関する実力試験計画に参加することが望ましい.[我が国には実力試験計画(認定も含む)として財団法人 日本適合性認定協会が存在するが,費用の面で現実的ではない.法医中毒学研究室がグループをつくり,カリフォルニア法中毒学会(CAT: California Association of Forensic Toxicology)のように持ち回りで実力試験試料を作製してメンバーに配布する形態での実力試験計画が現実的であろう.]
実力試験エラーには,検査試料に含まれている化合物を検出できない偽陰性,逆に検査試料に含まれていない化合物が検出される偽陽性,ある一定幅の定量値(容認基準)を越える結果などがあるが,これらに対する適切で,時宜を得た修正作業が必須である.偽陽性エラーは最も深刻で,ガラス容器のコンタミネーションおよび前の試料の持ち越しなど,エラーの可能性のある原因を徹底的に調査しなければならない.
装置の日常の保守点検はQA計画の重要な部分である.GCのセプタムおよびライナーの交換のような作業など,すべての日常的および非日常的保守点検を文書にする.点検記録は,装置のそばに置かれている日誌 (Logbook),あるいはリングバインダーで綴じたチェックシートに記入する.同種の器具(例えば,10 µl, 20 µlおよび 100 µlのピペッターなど)は容易にそれを識別できるようにラベルを貼る. |
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7.2. Quality Control
コントロール:本当の意味で,コントロールは未知化合物を同定する検査試料であり,既知濃度の分析対象物質を含んでいる.試料の1つのバッチが単一試料あるいは複合試料の何れであっても,コントロールは未知試料と一緒に分析する.試料のバッチには少なくとも10%
のコントロールを加えることが望ましい.コントロールは少なくとも1つの陽性と1つの陰性を含まなければならない.陽性コントロールの容認基準は殆どの薬物で名目濃度(理論値)±20%にすることが望ましいが,LOQあるいはLOQに近接した濃度のコントロールでは±25
- 30%にするのが現実的であろう.コントロールの結果が前もって定めた偏差内であれば未知試料(検体)の検査結果は容認されるが,これを越える場合は“管理外Out
of control”とみなされ,検体の検査結果は容認されない.
コントロールはキャリブレーターとは異なった出所源の標準物質を使って調製することが望ましい.これができない場合は,コントロールはキャリブレーターとは別に秤量して調製する.
開放コントロール (Open control):開放コントロールはその正体および予定した結果を分析者に知らせているコントロールである.コントロールは販売業者から購入,研究室で調製,あるいは以前の事例試料を貯蔵・プールにより入手する.その出所源に拘わらず,コントロール中の分析対象物質の濃度は確認しておかなければならない.
定量QC試料の分析結果は,試薬,キャリブレーターあるいはコントロールの劣化などの傾向を容易に発見できる方法で記録しておく.頻繁に分析するコントロールは,その結果をLevy-Jenningsプロットのようなグラフにプロットする.あまり分析しないものでは,表でよい.コントロールの変動係数を測定すると,分析法の正確さに関する有用な情報が得られるので,どの分析法を更に改良しなければならないかが明らかになるだろう.
盲検コントロール (Blind control):その名前が意味するように,これはその正体が分析者に知らされていないことを除けば,開放コントロールと同じである.一般に,これを利用することはQCを維持するための理想的な方法であると考えられている.盲検コントロールは試料の受取り,受入れ,分析および報告書作成を含む研究室のすべての過程を検査する.これは“偽口座
(Dummy account)”を設けることによって,あるいは付託機関との協力によって実施できる.このような盲検コントロールは,時には“二重盲検
(Double blinds)”と呼ばれる.もっと実際的な方法は,各バッチ試料の中に盲検コントロールを挿入する受入区分を持つことである.しかしながら,これら何れの方法も経費と手間がかかるので,小さな研究室では実施するのが困難であろう. |
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7.3. 基準(参照)物質
殆どの基準物質が純度100%ではないことに留意する.ラベルあるいは包みの折り込みには純度,不純物,水和の割合などが表示されている.さらに,説明書には基準物質の使用法に関する手引がある.例えば,遮光し,低温で保管し,湿気を避けなければならないなどの注意である.基準物質を取扱う場合は,その説明書に従わなければならない.
薬物のみならず,多くの化学物質には有効期限がある.光化学反応,空気酸化あるいはその他の方法により分解するので,この変化を定期的にモニターして評価しなければならない.そのような変化を見つける方法は多様であるが,基準物質でさえ,長期にわたっては最初の純度は維持できないことに留意する.溶液で供給された基準物質の安定性は固体の基準物質のそれよりもずっと低いだろう.
スタンダードとして用いる純粋な化合物の入手,および定期的な純度の検査は重要であるので,研究室は標準操作手順を改良し,それを履行する必要がある.その手順は:
1) |
定期的にキャリブレーション検査を行って,機器およびすべての器具の性能を最適に保つ. |
2) |
スタンダードとして用いる化合物は,できるだけ認証基準物質あるいは標準物質への道筋を辿ることによって表示されている純度を保証できる (Traceability) 信頼のおける供給源から入手する.あるいは, |
3) |
基準物質である化合物を入手する.無水の状態を維持するため,あるいは劣化を防ぐために,その取扱いに当たっては,基準物質に添付されている説明書に従う.あるいは, |
4) |
その他の供給源から化合物を入手する.しかし,必ず適切な物理常数を測定し,および/あるいは機器分析法によってその物質の純度を検査する. |
5) |
スタンダード調製用化合物の出所源に拘わらず,スタンダードの純度の変化を見つけ出すために,定期的にスタンダードを検査する方法を考案する. |
6) |
新しく調製したスタンダードは使用する前に,その特性を以前にバリデーションしたスタンダード,あるいは認証基準物質あるいは標準物質と比較する. |
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8. データの再吟味
分析結果を報告する前に,研究室で使用している分析プロトコールに熟練した職員が各バッチの分析データを再吟味する.この再吟味は以下の事項を含む.
1) Chain of custody文書
2) 分析データ(例えば,クロマトグラフのピークの形状とS/N比)および計算の有効性
3) QCデータ
また,分析結果は症例,剖検所見および関連した臨床データの内容と併せて再吟味する.この再吟味は分析記録の中に文書化する. |
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9. 報告書作成 |
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9.1. 総論
報告書*10をある一定のフォーマットに規定することは好ましくないだろうが,報告書はその事例およびその源を確認するために必要なすべての情報を含まなければならない.また,検査結果およびその内容に責任を持つ人が署名(あるいは捺印)しなければならない.
報告書に下記の事項を記載する*11:
1) 被剖検者の認識番号(剖検番号,検査試料登録番号など)
2) 研究室名
3) 提出先の機関名および/あるいは提出先の人名
4) 嘱託された日付
5) 報告書の日付
6) 検査した試料
7) 検査方法
8) 検査結果および考察
9) 報告書(検査結果およびその内容)に責任を持つ人の署名
報告書に,定性および定量結果を記載する.体液および組織の定量値の単位はmg/l, µg/l,mg/kgなど,国際基準に共通の単位を使用するように努力する.
*10 本報告書19頁:参考資料4を参照.
*11 もし,研究室が訴訟パッケージ(下記9.8を参照)を用意し,裁判所に提出できる状況にあれば,報告書/鑑定書は簡略な文書(検査方法などは削除)でよいだろう.[鑑定書については本報告書の「薬毒物検査のための手引き」28頁:報告書(鑑定書)の記載内容(例)参照.] |
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9.2. 追加・改訂報告書
報告書を提出した後に,追加の検査が必要になることがある.その場合は,追加の検査結果だけをまとめた追加報告書,あるいは追加の検査結果を原報告書に付け加えた改訂報告書を提出する. |
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9.3. 口頭報告
時には,警察あるいはその他の外部機関に対して報告書に関する情報を提供することが必要になることがある.そのような場合は,相手が誰であるかを十分確認するとともに,検査結果が記録され,再吟味されていることを確認してから検査結果を伝える. |
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9.4. 訂正報告書
報告書を提出した後で,原報告書あるいは追加・改訂報告書に印刷上,あるいはその他の点で間違いがあり,その訂正が必要になることがある.そのような場合は,その報告書は訂正報告書としてはっきりと付箋をして分類する.訂正報告書は最初の報告書と全く同じ情報を含まなければならない. |
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9.5. 報告書提出
標準操作マニュアルの中に,予め鑑定嘱託機関への報告書送付に関する手順を記載しておき,報告書提出にあたってはそれを遵守する. |
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9.6. 委託検査
分析のために他の研究室に試料を送ったときは,報告書にそれを記載する.委託検査の結果は研究室の報告書に組み入れる. |
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9.7. 記録の保存
記録の保存期間については,裁判の進捗状況,後刻の再審の可能性など,種々の要素により左右される.可能であれば,永久保存することが望ましいだろう. |
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9.8. 訴訟パッケージ (Litigation package)
北米では,研究室は定期的に特定の薬毒物検査報告書あるいは個々の結果に関連したデータおよび文書のコピーを裁判所に提出することを求められる.これを訴訟パッケージと称し,一般に,民事事件あるいは刑事事件を再調査するために弁護士が要求する.訴訟パッケージは資格のある法中毒学者が独自に再吟味できるように十分な資料を含んでいる.典型的な訴訟パッケージは検査依頼書,および研究室での試料の受取りから分析,その後の試料の措置の証拠を追跡するChain of Custody文書のコピーである.しかし,同定を立証するすべての分析データおよび分析対象物質の定量データ,さらに,単に生データと報告書だけではなく,ワークシート,検査順番表,分析対象物質の濃度範囲を含むQCデータを要求されることもある.
我が国では未だこのようなシステムにはなっていないが,その日が訪れるのもそれほど遠い将来ではないだろう.研究室は各事例毎に訴訟パッケージを用意しておくことが望ましい. |
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10. 安全
研究室は少なくとも,次の事項を記載した安全マニュアルを用意しておく.
1) 感染性試料の取扱いおよび生体試料の廃棄を含む試料の取扱い.
2) 研究室にある溶媒,試薬およびその他の化学薬品の取扱いと廃棄.
3) 研究室で使う放射性物質の取扱いと廃棄.
4) 研究室のガラス器具類の取扱いと廃棄.
5) 生体試料,化学薬品,溶媒,試薬,あるいは放射性物質による職員の障害,およびそれらをこぼした時の対応.
6) 研究室内での服装(例えば,実験着および安全メガネ),飲食,あるいは喫煙に適用される規則. |
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おわりに
本ガイドラインは法医中毒学研究室が将来の目標を達成するための指針となることを意図としたものである.忌憚のない御意見をお寄せ戴ければ幸いである. |
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文献
1. |
SOFT/AAFS Forensic Toxicology Laboratory Guidelines 2002. Society of Forensic Toxicologists Inc. and American Academy of Forensic Sciences, Toxicology Section. |
2. |
Guidance for Industry Bioanalytical Method Validation. U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER), Center for Veterinary Medicine (CVM), 2001. |
3. |
Recommended Guidelines for Quality Assurance and Good Laboratory Practices (ST/NAR/25) UNDCP, 1995. |
4. |
Glossary of Terms for Quality Assurance and Good Laboratory Practices.
United Nations, New York, 1995. |
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用語解説
Accuracy(正確さ): |
指定された条件の下で,名目値あるいは既知の真の値に対する測定値の近似度.時には,これは“trueness”と称される. |
Analyte(分析対象物質): |
測定している特定の(化学的)部分で,完全な薬物,生体分子あるいはその誘導体,代謝物,および/または生体マトリックス中の分解物である. |
Analytical run (or batch) |
[分析行程(分析バッチ)]:バリデーションのための適切な数のスタンダードとQC試料を伴った分析試料および試験試料の1つのセット.幾つかの行程(バッチ)が1日で完了する,あるいは1つの行程(バッチ)が数日を要する. |
Batch (分析バッチ): |
バリデーションのための適切な数のスタンダード,クオリティーコントロールおよび検査試料の1つのセット. |
Biological matrix |
(生体マトリックス):生体由来の個々の物質であり,再現できる方法で採取し,処理できる.例えば,血液,血清,血漿,尿,糞便,唾液,痰,および種々の組織である. |
Blind control(盲検コントロール): |
その正体を分析者に知らされていないコントロール. |
Calibrator |
(キャリブレーター):既知量の分析対象物質を添加した生体マトリックス.基準物質から調製した溶液,あるいは購入した溶液で,試料と同じマトリックスで調製する.QC試料および未知試験試料中の分析対象物質濃度を測定するための検量線作成に用いられる. |
Certified reference material |
(CRM)(認証基準物質):1つあるいはそれ以上の特性が有効な手段により証明されている,あるいは認証する団体が発行した証明書がある,あるいはそれを追跡できる基準物質. |
Chain of custody |
(証拠物件保管の継続性):試料の法的有効性を保証する1つの証で,検査試料が時間的な空白がなく,適切な人々に保管されいたことを示す文書. |
Control |
(コントロール):基準物質から調製した(キャリブレーターとは別に,すなわち,別に秤量あるいは量る)溶液,あるいは購入した溶液.これらのコントロールはキャリブレーションの有効性,すなわち時間経緯に関する定量分析の安定性を調べるために用いられる.コントロールは試料およびキャリブレーターのマトリックスに合わせる. |
Internal standard |
(内部標準物質):分析対象物質の定量を容易にするため,キャリブレーション・スタンダードと試験試料の両方に,既知・一定濃度加える基準化合物(例えば,構造的に類似した同族体,安定同位体化合物). |
Limit of detection (LOD) |
(検出限界):ある生体試料分析手順でバックグランド・ノイズと確実に区別できる分析対象物質の最低濃度. |
Limit of quantification (LOQ) |
(定量限界):Lower limit of quantification (LLOQ)(定量下限)とUpper limit of quantification (ULOQ)(定量上限)がある.各項参照. |
Lower limit of quantification (LLOQ) |
(定量下限):適切な精度と正確さで定量分析できる試料中の分析対象物質の最低濃度. |
Matrix effect |
(マトリックス効果):分析試料中の意図しない分析対象物質あるいはその他の妨害物質の存在による応答への直接的あるいは非直接的な変化あるいは干渉. |
Method(分析法): |
試料の分析に用いるすべての手順の理解し易い説明書. |
Open control(開放コントロール): |
その正体および予定した結果を分析者に知らされているコントロール. |
Outlier(異常値): |
真の値から有意に,かつ不正に外れた分析値. |
Precision(精度): |
指定された条件の下で,同じ同質の試料から採取した多数の検体の一連の測定値の近似度(分散度). |
Quality assurance(クオリティアシュランス): |
本文参照. |
Quality control(クオリティコントロール): |
本文参照. |
Quantification range |
(定量範囲):ULOQおよびLLOQを含み,濃度-応答関係全般にわたる正確さおよび精度とともに,信頼性があり,再現性のある定量分析ができる濃度範囲. |
Recovery(回収率): |
分析法の試料抽出および処理過程を通しての分析対象物質の既知量を百分率で表した分析過程の抽出効率. |
Reference material |
(基準物質):装置のキャリブレーション,測定の評価,あるいは物質に値を宛がうために用いられる,十分に確証された1つあるいはそれ以上の特性を持った化合物. |
Reproducibility(再現性): |
2つの研究室の間の精度.また,短期間,同じ操作条件下でのその分析法の精度を表す. |
Standard(標準物質): |
キャリブレーターの調製に使用できることが十分よく確認された1つまたはそれ以上の特性を持った基準物質 (Reference Material). |
(Calibration) Standard |
(スタンダード):既知量の分析対象物質を添加した生体マトリックスで,クオリティーコントロール試料および検査試料中の分析対象物質の濃度を測定するための検量線作成に用いられる. |
Sample(試料): |
下記のようなコントロール,ブランク,未知,および処理した試料を含む包括的な用語. |
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Blank(ブランク):分析対象物質を添加していない生体マトリックス試料で,生体試料分析法の特異性を評価するために用いられる. |
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Processed[処理した(試料)]:種々の操作(例えば,抽出,希釈,濃縮)をした試料の最終抽出物(機器分析前の). |
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Quality control sample (QC)(クオリティ・コントロール試料):生体試料分析法の機能をモニターし,個々のバッチで分析した未知試料の分析結果の完全さと有効性を評価するために用いられる分析対象物質を添加した試料. |
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Unknown(未知):分析対象の生体試料. |
Selectivity(選択性): |
代謝物,不純物,分解物,あるいはマトリックス成分のように,存在が予想される成分が共存する中で,分析対象物質を測定し,区別する生体試料分析法の能力. |
Stability(安定性): |
特定の条件下,一定の時間内でのマトリックス中分析対象物質の化学的安定性. |
Standard curve(標準曲線): |
機器の応答と試料中の分析対象物質の濃度の関係.検量線(calibration curve)とも呼ばれる. |
Standard operating procedure (SOP) Manual |
(標準操作手順マニュアル):本文参照. |
System suitability |
(システムの適合性):分析バッチの測定に先立った,リファレンス・スタンダードの分析による機器の能力(例えば,感度およびクロマトグラフィーの保持時間)の検査. |
Upper limit of quantification (ULOQ) |
(定量上限):精度と正確さを伴って定量できる試料中の分析対象物質の最高濃度. |
Validation(バリデーション): |
特定の方法を研究室の検査に使ってみて,その方法の実際の特性が企図した分析に適しており,信頼性があることを確認し,そのことを文書化することである.分析データの容認性(容認あるいは棄却)はその方法をバリデートするために用いた基準そのものである.バリデーションには下記の3つがある. |
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Full validation(完全バリデーション):試験試料を生体試料分析法に適用するためのすべてのバリデーション・パラメーターを確立すること. |
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Partial validation(部分バリデーション):すでにバリデートした生体試料分析法を修正するような場合で,必要な部分だけのバリデーションでよい. |
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Cross-validation(交叉バリデーション):2つの生体試料分析法のバリデーション・パラメーターを比較すること. |
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参考資料1 |
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例:◯◯大学・法医学教室・法医中毒学部門の使命/目的
本部門の使命/目的は,公正で信頼性のある薬毒物鑑定を行ない,真実を究明することにより,基本的な人権の擁護/社会の安寧に寄与することにある.すべての研究室関係者は予断や偏見を抱くことなく,常に,公正で信頼性のある分析を行なうよう心掛けねばなければならない.
すべての試料を厳格なchain of custody手順のもとで取り扱う.検査のために受入れた試料を“薬毒物検査試料受入簿”に記録し,誰が試料に触り,何のために,何時,どれだけ使用したかを常に文書化する. |
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参考資料2 |
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試料注入順番表
順 番 |
試 料 名 |
順 番 |
試 料 名 |
1 |
溶 媒 |
11 |
事例 1 |
2 |
ブランク |
12 |
ブランク |
3 |
キャリブレーター 1 |
13 |
事例 2 |
4 |
キャリブレーター 2 |
14 |
事例 2 |
5 |
キャリブレーター 3 |
15 |
ブランク |
6 |
ブランク |
16 |
事例 3 |
7 |
コントロール 1 |
17 |
事例 3 |
8 |
コントロール 2 |
18 |
ブランク |
9 |
ブランク |
19 |
事例 4 |
10 |
事例 1 |
20 |
事例 4 |
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参考資料3 |
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AFIP依頼書,依頼書,分析行程シート,GCCOワークシート,検査概要報告書,OCME依頼書,呈色AD-Screen,Basic Drug-Screen,Special
Drug Analysis,Morphine RIA,Morphine Confirmation,Worksheet Summary,試料内容 (Excel シート) |
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参考資料4 |
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薬毒物検査報告書 |
Ref.: ABC – 0yy/0x |
200x年x月x日 |
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【検査項目】
1. 液-液抽出による塩基性薬毒物スクリーニング(検査者:○○○○)
2. 液-液抽出による酸性薬毒物スクリーニング(検査者:○○○○)
3. Promethazine, Clomipramine, ChlorpromazineおよびLevomepromazineの同時定量(検査者:○○○○)
4. Phenobarbitalの定量(検査者:○○○○) |
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【検査試料】
◇◇大学法医学教室 ♢♢♢♢教授から検査を依頼された下記の試料.200x年x月1日 13時15分,○○大学法医学教室において,△△運輸スーパー△△△便(問い合わせ番号:S0S-XXX-XXX)にて送られた封をした発泡スチロール箱1個を□□□□が受領した.
発泡スチロール箱の中には,ドライアイスとともに,凍結した試料(試料ID番号:xx-xxx)が入っている.写真撮影後,直ちに–20℃の冷凍庫に施錠して保管した.
試料: 心臓血.「xxx」と書かれたパウチ袋中の「xx-xxx」と書かれたネジ口栓付ポリプロピレン製円筒型容器に入った凍結した試料 約9 ml. |
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【試料の履歴】
200x年x月2日,スクリーニング用として試料:心臓血2 ml (1 ml x 2) を分取した.残りの試料は–20℃の冷凍庫に施錠して保管した.
200x年x月5日,塩基性薬物定量用として試料:心臓血1 ml (0.5 ml x 2) を分取した.残りの試料は–20℃の冷凍庫に施錠して保管した.
200x年x月6日,酸性薬物定量用として試料:心臓血1 ml (0.5 ml x 2) を分取した.残りの試料は–20℃の冷凍庫に施錠して保管した. |
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【検査方法】
1. 液-液抽出による塩基性薬毒物スクリーニング
心臓血1 mlをとり,0.01N-塩酸4 mlを加えてよく混和する.これに炭酸アンモニウム2 gおよび酢酸エチル5 mlを加え,10分間振盪後,3,000 rpmで15分間遠心分離する.上清 約4 mlをとり,0.1N-塩酸2 mlを加え,上記と同様に振盪し,2,500 rpmで10分間遠心分離する.塩酸層1.8 mlをとり,0.2N-水酸化ナトリウム液1 mlおよび酢酸エチル 1 mlを加え,同様に振盪,遠心分離する.酢酸エチル層 約 0.8 mlをとり,窒素気流下,溶媒を除去する.残渣を酢酸エチル2滴(約20 µl)に溶かし,GC/MSで分析する.
2. 液-液抽出による酸性薬毒物スクリーニング
心臓血1 mlをとり,0.01N-水酸化ナトリウム液4 mlを加えてよく混和する.これに0.1N-塩酸0.6 ml,エーテル5 mlおよび硫酸アンモニウム3 gを加え,10分間振盪後,3,000 rpmで15分間遠心分離する.上清 約4 mlをとり,0.1N-水酸化ナトリウム液2 mlを加え,10分間振盪後,2,500 rpmで10分間遠心分離する.水酸化ナトリウム液層1.8 mlをとり,1N-塩酸0.2 mlおよび酢酸エチル1 mlを加え,同様に振盪,遠心分離する.酢酸エチル層 約0.8 mlをとり,窒素気流下,溶媒を除去する.残渣を酢酸エチル2滴(約20 µl)に溶かし,GC/MSで分析する.
3. Promethazine, Clomipramine, ChlorpromazineおよびLevomepromazineの同時定量
心臓血0.5 mlをとり,内部標準液(Promazine 50 ng/µl)10 µlを加えてよく混和する.これに0.01N-塩酸4 mlを加えてよく混和し,炭酸アンモニウム2 gおよび酢酸エチル5 mlを加え,10分間振盪後,3,000 rpmで15分間遠心分離する.上清 約4 mlをとり,0.1N-塩酸2 mlを加え,上記と同様に振盪し,2,500 rpmで10分間遠心分離する.塩酸層1.8 mlをとり,0.2N-水酸化ナトリウム液1 mlおよび酢酸エチル 1 mlを加え,同様に振盪,遠心分離する.酢酸エチル層 約 0.8 mlをとり,窒素気流下,溶媒を除去する.残渣を酢酸エチル2滴(約20 µl)に溶かし,GC/MSで分析する(試料は二重分析).同時に,ブランク:ブランク血液0.5 ml,キャリブレーター:ブランク血液 各0.5 mlにそれぞれキャリブレーター(3濃度)を加えたもの,およびコントロール:ブランク血液 各0.5 mlにそれぞれコントロール(2濃度)を加えたものを用意し,これらに内部標準を加えて混和後,上記と同様に操作する. |
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GC/MSの条件
装 置: Shimadzu GCMSQP5050A
カラム: DB-5ms column (15 m×0.25 mm I.D., 0.25 µm film thickness; J & W)
温 度: column 120℃ 1 min, 120℃ - 300℃ (30℃/min); injector 290℃;interface
& ion source 260℃
キャリアガス: He, 1.5 ml/min
イオン化エネルギー: 70 eV |
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GC/MS-SIMの条件
薬 物 名 |
モニターイオン
(m/z) |
モニター
開始時間(分) |
モニター
終了時間(分) |
保持時間(分) |
Promethazine |
180, 284 |
5.40 |
5.55 |
5.49 |
IS (Promazine) |
86, 284 |
5.56 |
5.70 |
5.65 |
Clomipramine |
85, 269 |
5.80 |
5.95 |
5.88 |
Chlorpromazine |
86, 318 |
6.05 |
6.23 |
6.10 |
Levomepromazine |
100, 328 |
6.05 |
6.23 |
6.20 |
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4. Phenobarbitalの定量
心臓血0.5 mlをとり,内部標準液(Allobarbital 0.75 µg/µl)10 µlを加えてよく混和する.これに0.01N-水酸化ナトリウム液4 mlを加えてよく混和し,0.1N-塩酸0.6 ml,エーテル5 mlおよび硫酸アンモニウム3 gを加え,10分間振盪後,3,000 rpmで15分間遠心分離する.上清 約4 mlをとり,0.1N-水酸化ナトリウム液2 mlを加え,10分間振盪後,2,500 rpmで10分間遠心分離する.水酸化ナトリウム液層1.8 mlをとり,1N-塩酸0.2 mlおよび酢酸エチル1 mlを加え,同様に振盪,遠心分離する.酢酸エチル層 約0.8 mlをとり,窒素気流下,溶媒を除去する.残渣を酢酸エチル2滴に溶かし,GC/MSで分析する(試料は二重分析).同時に,ブランク:ブランク血液0.5 ml,キャリブレーター:ブランク血液 各0.5 mlにそれぞれキャリブレーター(3濃度)を加えたもの,およびコントロール:ブランク血液 各0.5 mlにそれぞれコントロール(2濃度)を加えたものを用意し,これらに内部標準を加えて混和後,上記と同様に操作する. |
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GC/MSの条件
装 置: Shimadzu GCMSQP5050A
カラム: DB-5ms column (30 m×0.25 mm I.D., 0.25 /µm film thickness; J & W)
温 度: column 80℃ 1 min, 80℃ - 300℃ (20℃/min); injector 250℃;interface &
ion source 260℃
キャリアガス: He, 1.5 ml/min
イオン化エネルギー: 70 eV |
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GC/MS-SIMの条件
薬 物 名 |
モニターイオン
(m/z) |
モニター
開始時間(分) |
モニター
終了時間(分) |
保持時間(分) |
IS (Allobarbital) |
167, 193 |
7.25 |
7.50 |
7.39 |
Phenobarbital |
204, 232 |
9.30 |
9.50 |
9.42 |
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【検査結果】
検査方法の項目毎に検査結果を記す. |
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1. 液-液抽出による塩基性薬毒物スクリーニングの結果,心臓血からNicotine, Nicotinamide, Caffeine, Promethazine, Norpromethazine, Clomipramine, Desmethylclomipramine, Chlorpromazine, Levomepromazineおよび未同定物質1種が検出された.
未同定物質:
m/z 70, 86, 185, 210, 229 (base peak), 242, 314;tR = 11.7 min
2. 液-液抽出による酸性薬毒物スクリーニングの結果,心臓血からCaffeineおよびPhenobarbitalが検出された.
3.および4. 各種薬物の定量結果および文献値を下表に示す. |
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表 各種薬物の血液中濃度と治療・中毒・致死レベル 単位:mg/l
薬 物 名 |
0yy/0x |
治療レベル |
中毒レベル |
致死レベル |
Promethazine |
0.30 |
0.1 – 0.4 |
1 |
2.4 – 12
1.8 – 5.4 |
Clomipramine |
0.87 |
0.09 – 0.25 |
0.4 |
0.54 – 3.3
1.6 – 2.4 |
Chlorpromazine |
0.31 |
0.03 – 0.5 |
0.5 – 2 |
2 |
Levomepromazine |
0.42 |
0.02 – 0.15 |
0.4 |
0.5
0.8 – 4.1 |
Phenobarbital |
7.13 |
2 – 30 |
30 – 40 |
45 – 120 |
TIAFT reference blood level list of therapeutic and toxic substances [TIAFTホームページ(http://www.tiaft.org/)Members area] |
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【考 察】
1. |
本屍はベゲタミン(Promethazine,ChlorpromazineおよびPhenobarbitalの配合剤),アナフラール(Clomipramine)およびヒルナミン(Levomepromazine)を摂取したものと考えられる. |
2. |
本屍の心臓内血液中薬物濃度はベゲタミン成分のPromethazine,ChlorpromazineおよびPhenobarbitalは何れも治療レベル,Levomepromazineは中毒レベル,Clomipramineは致死レベルである. |
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以上 |
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○○大学法医学教室 |
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報告書作成者:○○○○ ㊞ |
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