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薬 毒 物 検 査 マ ニ ュ ア ル |
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緒 言 (1999年版) |
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1989年に日本法医学会・法医学実務に関するマニュアル委員会によって「薬毒物検査マニュアル 1989年」が発行されて以来,法医中毒学分野におけるガスクロマトグラフや高速液体クロマトグラフ,質量分析計などの精密機器の普及はめざましく,多くの法医学教室が何らかの形でそれらを利用して一段と高度で精度の高い薬毒物関連事例の鑑定を行っている.
一方,欧米各国の法中毒学研究室では法中毒に関する種々のガイドライン,勧告に基づき,すでに分析の精度管理(Quality Control),分析の信頼性の保証(Quality
Assurance)などを維持するため,外部機関による熟練度試験(External Proficiency Testing)が実施されている.さらに社会の要請により,法中毒専門家の認定や施設としての法中毒研究室の認定が実施されつつある.
このような状況下,教育研究委員会の内に法医中毒ワーキンググループが設置され,時代に即した正確で信頼性のある薬毒物分析を実施するための「薬毒物検査マニュアル」を作成することになった.
法医中毒学(Forensic Toxicology)の基本理念は事件,事故,過失,などとの関わりを有する事例から得られた試料中の薬毒物を分析し,その結果から薬毒物関与の有無,関与の程度を正しく解釈・評価し,真実を究明することにある.これは必然的に個人の基本的人権とも関わりをもつことになる.したがって,試料の採取に始まり試料の受託,分析,保管および廃棄に至る一連の試料の取扱いは極めて厳格でなければならない.また,試料の分析は精度の高い再現性ある方法が用いられ,結果の解釈は十分な法医中毒学の知識をもって行わなければならない.さらに,一連の過程はすべて文書として記録にとどめ,後刻の再検討が必要となった際には呈示できるようにしておかなければならない.
本マニュアルは上記の理念に沿った分析付託試料の基本的な管理・取扱の指針および主要な薬毒物の推奨分析法が記載してある.選択した薬毒物は日常の業務で比較的遭遇する機会の多いものとし,その分析法は各研究者が直ちに利用でき,かつ十分な信頼性が得られる方法を優先した.
今後,本マニュアルに掲載した分析法は実試料をもって追試し,その結果をもとに定期的に修正・加筆するとともに,より優れた分析法が確立されれば差し替えも必要となる.また,誌面の制約により割愛せざるを得なかった薬毒物の分析法も逐次追加しなければならない.これらの作業は法医中毒学の向上ならびに実務への貢献を考えると継続的に実施される必要がある. |
1999年11月 |
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