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2.分析


(1) スクリーニングおよび確認
分析対象薬毒物が予め指定されている場合を除いて,まず最初にスクリーニング検査を行い,試料中に存在する薬毒物を推定することが望ましい.スクリーニングで検出した薬毒物(群)については,スクリーニングと確認検査が同時に行えるGC/MS およびLC/MSを使用した場合を除いて,必ず確認検査を行わなければならない.確認検査はスクリーニングで用いた手段より特異的で感度の高い方法によって行う.陽性・陰性の判定には,用いた分析法の検出限界*3ではなく,カットオフ値*4を用いる.

*3 検出限界 (LOD:limit of detection) はGCあるいはHPLCでは,一般にS/N = 3の濃度,すなわち,ブランクマトリックス (血液,尿など) のバックグランドのノイズ (N) の3倍のピーク高さ (S) を示す分析対象物質の濃度をいう.LOD値は分析機器,試料マトリックスによって異なるので,文献記載の分析法を用いても,各研究室で再度チェックする必要がある.

*4 カットオフ値は検体の検査結果が陽性であるか否かを判定する下限の濃度であり,その方法の検出限界とは必ずしも一致しない (例えば,イムノアッセイにおける交差反応性による偽陽性を排除するためのカットオフ値の設定.アルコール検査では内因性のアルコールが存在するため,カットオフ値はそれ以上に設定しなければならない.また,MSを用いた分析ではマススペクトルの一致の度合いをどの程度に設定するかが大きな問題である). 

(2) 定量分析
摂取した薬毒物の個体に対する影響を言及するには,体液・体組織中薬毒物濃度に関するデータが不可欠である.したがって,スクリーニングおよび確認検査で同定した薬毒物は定量分析することを勧める.定量分析法の選択は研究室で使用できる手段によって制限されるが,選択した分析法については,試料を分析する前に,必ず,その分析法の精度,再現性,検量線の特性,定量限界,ブランク試料のバックグランドなどを再チェックする.一般的には内部標準法により定量するが,ある場合には,標準添加法を用いる [ブランクマトリックス (blank matrix) の妨害がある時など].何れの場合も,1試料につき少なくとも2重の定量 (n≧2) を行う.もし,n回の分析値の変動が予め設定した許容範囲を越えたときは再定量する.

i) 内部標準物質:内部標準物質には抽出・分離過程で分析対象物質と類似の挙動を示す分析対象物質の同族体,あるいは分子構造が類似した化合物を用いる.GC/MSおよびLC/MSでは分析対象物質の重水素標識体が最適である.

ii) 検量線:検量線は少なくとも3種のキャリブレーターとブランクを用いて作成する.キャリブレーターはでき得る限り分析対象物質の標準物質を用い,試料と同じマトリックスにする.

iii) 標準物質 (standard)*5:分析対象物質の標準物質は直接定量値に影響を及ぼすので,純度が高く,その純度が測定されたものでなければならない.もし,純度が表示されていない場合は,純度を測定してから使用する.湿気を避け (密封する),遮光して低温で保存し,使用期限を厳守する.期限切れのものを使用しなければならない場合は,純度を測定してから使用する.

iv) コントロール:コントロールはキャリブレーションの有効性,経時的な定量分析の安定性を調べるために用いる.したがって,コントロールはキャリブレーターとは別に,基準物質から調製する.毎日行うルーチン分析では (キャリブレーションは一定期間毎に行うので),コントロールは重要な意味を持っている.コントロールの分析値が予め定めた範囲 (例えば,平均値±2S.D.) を越えた場合はそのバッチは無効にする.

*5 我が国では残留農薬標準品のように純度等が測定された標準物質が市販されている.欧米では規制薬物を含む多数の基準物質 (reference material),認証基準物質 (certified reference material) およびこれらから調製したキャリブレーターおよびコントロールが市販されている.

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